ロープアクセスとは

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ロープアクセス技術の基本

ロープアクセス技術とは、文字通り、ロープを使って(高所・難所に)アクセスする技術で、木登り、窓拭き、ロッククライミング、のり面工事など、多種多様にわたります。

これらのうち、橋梁点検、岩壁・落石調査、特定道路土工構造物点検・のり面調査などの調査・点検に活用できる技術がロープアクセス技術【SORAT】
で、きぃすとんが開発し、ロープアクセス技術協会(略称SORAT)が普及に努めています。

ロープアクセス技術【SORAT】のルーツは、欧米で発展した洞窟探検技術(通称SRT)で、洞窟探検家の関治(せきおさむ)を中心としたきぃすとんスタッフ達が、日本における調査・点検業務に適用すべく開発し、改良発展させたものです。

ロープアクセス技術【SORAT】では、ロープユーザー(ロープ作業者)が1 本もしくは複数のロープを使って、上下左右前後へと自由自在に移動して、どんな高所・難所にも【安全】【迅速】【確実】にアクセスし、近接目視により点検・調査をおこないます。

ロープアクセス技術の主要装備

ロープアクセス技術で使用する装備の、ほぼすべてが海外製で、UIAA 規格や
EN 規格に準拠しており、信頼性の高いものです。 大半が金属(アルミ)製もしくは繊維製で、高い強度を維持しつつ、軽量化が図られています。

ロープはセミスタティックロープという種類のロープで、径8 ㎜から12 ㎜程度と細く、かつ、しなやかながら、2 トン程度の荷重に耐え、いわゆる親綱と同等の強度があります。 

ロッククライミングで使うロープ(ダイナミックロープ、ザイル)との違いは伸縮性で、墜落時の衝撃を吸収するために十分な伸縮性をもたしているダイナミックロープと違い、セミスタティックロープは荷重がかかっても少ししか伸びないように工夫されています。

ロープの長さは20mから100mと様々で、ケースバイケースで使い分け、ロープバッグに収納して携行し、随時、必要分を引き出して使います。

昇降器具は、下降器(ディッセンダー)と登高器(とこうき、アッセンダー)に大別でき、下降器としてはリグ(RIG)、登高器としては、ハンドアッセンダー、チェストアッセンダーなどを組み合わせて使います。

保護帽(ヘルメット)は、いわゆるロッククライミング用と同じで、どんな動きや体勢でも決して脱げないものを使います。

安全帯(ハーネス)は、いわゆるフルハーネスで、ロープアクセス技術専用のものもあり使用者の体にフィットしたものを選び、正しく装着します。
そのほかの装備も含めると、下世話ですが、一式10 ㎏、10 万円程度です。

原則として、すべて自前・自己管理で、ロープ作業者(ロープユーザー)自身で購入し、自分で責任をもって管理し、貸し借りは論外です。

基本技術

アンカーシステム

ロープは異なる2 つの堅固な支持物(支点)に緊結して使用し、緊結の仕方によって、バックアンカーシステムと、シェアードアンカーシステム等があり、2 つの支点の位置関係によって使い分けます。

バックアップアンカーシステム

2つの支点(アンカー)をメインアンカーとバックアップアンカーとして位置づけ、メインアンカーにすべての荷重(ロープ作業者の体重ほか)が通常かかり、万一、メインアンカーでの確保が、脱落などで失われた場合に、バックアップアンカーに荷重がかかり、墜落を阻止するシステムです。

シェアードアンカーシステム

2つの支点(アンカー)に荷重を分散してかけるシステムで、Y 字になることからY ビレイともいいます。
Y 字のノットには「アルパインバタフライ」を使用します。 「アルパインバタ
フライ」の特徴としては、荷重を分散できることとノットを作ることによる強度損失を最小限に抑えられることです。

ロープアクセス技術による下降

ロープで下降するギアは多数あり、様々な特徴を持っています。 ロープアクセスでは、使用したロープにキンク(よじれ)がつかないインライン型で、オートストップ機能を有する下降器が要求されます。PETZL 社のリグ(RIG)を採用することが多いです(写真1-1)。

リグ(RIG)は、ロープとの摩擦によってカムが回転し、ボビンとの間にロープを挟むことでロックします。

左手でレバー、右手でロープを握ります。レバーを反時計回りに動かし、徐々に摩擦を解除し下降します。右手の制動側ロープから絶対に手を離さないことが重要です。制動側ロープを握らずにレバーを操作すると、無制動状態となり墜落します。

また下降スピードが速すぎると、下降器のボビンとロープの摩擦で高熱が生じ、ロープの外皮を溶かす可能性があります。1m 降りるのに2 秒程度かけるのが、目安になります。

ロープアクセス技術による登高

登高器を使ったロープの登高システムは数種類あり、その中でもロープアクセス技術では垂直または空中での移動や滞在に適したシステムを採用します。

ハンドル付きの登高器と胸部用の登高器を組み合わせて使用します(写真1-3、ハンドアッセンダーとチェストアッセンダー)

登高器は、カムの歯がロープを噛むことにより、フレームとの間でロープを挟むことでロックします。ロープは上方向にはスライドし、下方向に引いた場合にはブレーキがかかります(図1-4)。

器具をロープにセットしたら必ず、荷重がかかる方向に引いてロックしていることを確認します。

リビレイ

下降途中で、新たな支点を設け、その支点に荷重を乗せ替えることをリビレイという。

ロープがエッジ(鋭利な角、岩角等)に擦過(さっか)する可能性のある場合、擦過箇所の下方でリビレイ支点に荷重(ロープ作業者の体重ほか)を乗せ替えることで、擦過箇所を通過するロープからテンションを抜き(ロープがたるんだ状態にし)、擦過によるロープへのダメージを回避します。

ディビエーション

リビレイするだけの十分に堅固な支持物(リビレイ支点)がない場合、リビレイの代用として使われ、ロープを擦過箇所から離すように引っ張ることで擦過を回避します。

ディビエーションはリビレイと違い、ロープは結束せずにカラビナ内を通過するのみです。 ディビエーション支点は擦過箇所の反対側の壁、木などから取得し、ディビエーション支点から伸ばしたスリングにカラビナを取り付け、ロープを通過させます。

ローププロテクター

ロープガードともいい、擦過箇所をリビレイやディビエーションで回避できない 場合、ロープに巻き付ける保護材です。

ロープジョイント

下降途中でロープが足りなくなった場合は、ロープを結び合わせた上で、その結び目(ロープジョイント)を越えて下降します。

ロープジョイントには、バックアップノットを必ず作成し、結び間違いによる墜落を防ぎます。 後述の「2 点確保の大原則」はここでも徹底しています。

ロープアクセス技術の安全について

きぃすとんのロープアクセス技術【SORAT】は、安全確保を大前提にした技術と謳(うた)っており、具体的には次の“安全確保3 原則”が基本となります。

◆安全確保3 原則 その1 『2 点確保の大原則』
◆安全確保3 原則 その2 『作動チェック』
◆安全確保3 原則 その3 『仮荷重テスト』

以上の“安全確保の3 原則”が  “いかなる場合でも絶対に”  確実に出来るようになれば、安全確保は万全!!・・と言っても過言ではないです。
◆◇◆安全実績35 年 おかげさまで、創業以来無事故のきぃすとんです◆◇◆

2 点確保

常に最低2 点で確保する。 万が一、片方の支点での確保が失われても、もう一方の支点での確保が残っているので墜落しない・・・との大原則です。

移動のため支点を掛け替える場合は、移動方向に新たな支点を設置し、一時的に3 点で確保した上で、元の1 点を解除し、2 点確保に戻し、移動します。

この『2 点確保の大前提』は、改正安衛法(ロープ高所作業)で義務づけられたライフラインの概念を“超える”安全確保原理としての位置づけも出来ます。

2 点確保を大前提に、3 次元的に迅速かつ自由自在に移動するロープ技術が独自開発され日々進化(深化)しています。

作動チェック

ロープをセットした下降器・登高器が正常に作動することを、ロープをセットするたびにチェックして確認することを作動チェックといい、安全確保3 原則のひとつです。

作動チェックにより器材へのロープセットの間違いや、カラビナのねじれがないことなどを確認します。

仮荷重テスト

下降開始時やリビレイ時などの、支点を構築するたび・・・予め安全を確保した上で・・・、試しに支点に全体重をかけてみて、支点が十分に強固であるかをチェックして確認することを仮荷重テストといい、安全確保3 原則のひとつです。

このテストに合格した支点のみを使用してロープをセットします。
改正安衛法(ロープ高所作業)において“メインロープとライフラインは、作業箇所の上方のそれぞれ異なる堅固な支持物に、外れないように確実に緊結すること。”と記載されており、「堅固な支持物」であるかのテストに該当します。

ロープチェック

ロープに損傷が出来ていないかどうかをチェックすることをロープチェックといい、日常管理でのチェックだけでなく、作業現場においてもロープバッグからの出し入れのたびに触診と目視により損傷がないかチェックを繰り返し、もしあれば即、廃棄します。

このチェックにより、ロープが傷んでいて、切れる可能性を無くしています。

「ロープは切れないのですか?」

「ロープは、切れないのですか?」と、よく心配されますが大丈夫です。うちのやり方だと切れることはありません」。

ロープが切れる可能性は、主に下記の3 つが単独、もしくは合わさった時です。

その1   ロープにかかる荷重が大きすぎて、切れる。
その2   ロープが傷んでいて、切れる。
その3   ロープが鋭利な角でこすれたりして、切れる。

これらの可能性に対して、ロープアクセス技術【SORAT】では、以下の対策を万全に講じています。

 

 

その1   ロープにかかる荷重が大きすぎて、切れる。
対策1   使用するロープの強度は十分で、親綱と同程度で、2 トン程度の重さにまで耐えられます。

その2   ロープが傷んでいて、切れる。
対策2   ロープチェックを日々、使用前、使用後ごとにこまめに実施し、傷みがあれば、廃棄しています。

その3   ロープが鋭利な角でこすれたりして、切れる。
対策3   ロープが鋭利な角等に触れないように、リビレイやディビエーションなどのロープ技術でロープの通過位置を制御したり、ロープガードなどでロ
ープを保護したりします。

このように、ロープアクセス技術【SORAT】では、上記の万全の対策で、ロープの切れる可能性をゼロにしています。

 

ロープアクセス技術の応用技術

ロープアクセス技術による橋梁点検で多く用いられる、きぃすとんのオンリーワン技術を中心に紹介します。 絶対の安全を大前提に日々進化(深化)しています。

トラバース

ロープアクセス橋梁点検の基本的技術です。 吊り金具や主桁ウェブのスカ
ラップ、横構などスリングが掛けられるものに支点を作り、次々に乗り換えて水平方向へ移動しながら点検します。

また、トラバースには1 人で支点の設置、撤去までを行いながら進む「1 人トラバース」と2 人1 組になり先行する点検員が支点を作り後に続く点検員が撤去しながら進む「2 人トラバース」があります。 

 

 進む(点検する)スピードは2 人トラバースのほうが速いですが、同範囲を点検する人工数は倍になります。 多くの場合一人トラバースの方が経済的ですが、主桁、横桁の形状によっては1 人では進めない場面もあり、現場毎に最適な方法を採用しています。

ボルトトラバース

進みたい(点検したい)方向に支点となる部材がない場合に、躯体にボルトを打設し支点を作成しながらトラバースを行う技術です。

通常のトラバースに比べアンカー打設の手間があるため点検スピードは落ちます。

Vリグ

複数の異なる支点を取ったロープと複数の下降器(登高器)を使用して立体的に移動する技術です。 

一度の下降で広範囲をカバーできるので橋脚点検時には必須です。

(図2 – 2 V リグによる橋脚点検)

チロリアンブリッジ

あらかじめ張力を持たせたロープにぶら下がり水平方向へ移動する技術です。
PC 床版橋など支点が取れない場面での移動、点検に効果を発揮します。
支点間距離で20m程度まで対応可能です。

主塔へのアプローチ

斜張橋、吊橋の点検では主塔頂部へいかにアプローチできるかがポイントになります。

主塔自体に昇降設備が整備されている橋梁なら問題ないのですが、そういうものがない場合がほとんどです。 きぃすとんでは安全・迅速・確実に主塔頂部へ到達する方法を編み出し、実践しています。

(写真2 – 5 ビッグショット)

(写真2 – 6 ドローン)

(写真2 – 7 エイド)

ビームスライダーの有効性

ビームスライダーを使ってのトラバースについて。
ビームスライダーは吊り金具等、支点となる部材がない場合に主桁、横桁、
縦桁の下フランジに設置し支点の一つとして使用します。 

下フランジ幅が変化する場合や端部がフリーの場合(他の鋼材との間に隙間がある場合)には抜け落ちる可能性があるので運用には十分な知識と注意が必要です。ビームスライダーがあれば移動(トラバース)のスピードはぐっと上がります。


また、前述したような支点が取れない場合には必須の器具になりつつあります。が、下フランジに設置して使用するので点検員の位置は下フランジより下になってしまいます。 桁高が高い場合には床版への近接ができない位置です。

移動はできるけど近接はできない・・・では点検には使えません。 使いどころを考えての運用が必要です。

ロープアクセス技術おける事故発生時の備え

ロープアクセス技術【SORAT】は、前述「技術について」「安全について」で説明したように、確立された技術であり、正しく実践すれば安全な技術です。

しかしどのような技術においても事故のリスクと完全に切り離すことは難しいです。高所・難所にアクセスするという性質上、事故遭遇者がロープアクセス技術者にしかアクセスできない場所にいる場面が想定されます。

少なくとも一般の公的救助機関(消防・警察)が到達可能な場所まで事故遭遇者を自力(現場調査メンバー)で搬出できる能力を有することが必要です。

きぃすとんのロープアクセス技術【SORAT】では、年数回のレスキュー訓練の実施を義務付けて安全対策を行っています。

また事故が発生した場合を想定し、予め緊急時の連絡先や周辺の医療施設の
情報を収集しておきます。 

事故が発生した場合には、必要に応じて、レスキュー等の対応を行い、速やかに医療機関を受診する必要があります。

ロープアクセス技術と法律

法律上の位置づけ

ロープ高所作業

「ロープアクセス技術」は改正された安全衛生規則(平成28 年施行)におい
て「ロープ高所作業」に該当します。

(1) ロープ高所作業の定義(第539 条の2関係)
ロープ高所作業の定義を、「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具(労働者自らの操作により上昇し、又は下降するための器具であって、作業箇所の上方にある支持物にロープを緊結してつり下げ、当該ロープに労働者の身体を保持するための器具。)を用いて、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(40 度未満の斜面における作業を除く。)」としたこと。

ロープ高所作業特別教育

また従事する調査員は「ロープ高所作業特別教育」を修了しておく必要があります。きぃすとんでは全調査員が「ロープ高所作業特別教育」を修了しております。

ロープ高所作業に係る業務に従事する労働者に対する特別教育について、学科教育、実技教育の内容を次のとおり規定したこと。(第23 条関係)

(学科教育)
(1) ロープ高所作業に関する知識 1時間
(2) メインロープ等に関する知識 1時間
(3) 労働災害の防止に関する知識 1時間
(4) 関係法令 1時間

(実技教育)
(5) ロープ高所作業の方法、墜落による労働災害の防止のための措置並びに安
全帯及び保護帽の取扱い 2時間
(6) メインロープ等の点検 1時間

安衛則への適用

ライフライン

改正された安全衛生規則(平成28 年施行)により、『ロープ高所作業』が定
義され、『ライフラインの設置』が義務づけられました。

この中で『経過措置』に関する項目があり、「ロープアクセス技術」はこの部
分を網羅しています。経過措置の内容は以下になります。

経過措置

ロープ高所作業のうち、ビルクリーニングの業務に係る作業やのり面保護工事に係る作業以外の作業( 橋梁、ダム、風力発電などの調査、点検、検査等を行う作業など) については、①及び②の措置を講じた場合に限り、当分の間、1の「ライフラインの設置」の規定は適用しないこととしています。

①メインロープを異なる2 つ以上の強固な支持物に緊結すること
②メインロープが切断するおそれのある箇所との接触を避けるための措置
を講じること。( ディビエーション) それが困難な場合は①の他に当該箇
所の下方にある堅固な支持物にメインロープを再緊結すること。(リビレイ)

つまり調査・点検現場では、2 点確保や、ディビエーション、リビレイなどの安全対策を講じるならば、必ずしもライフラインの設置は必要ないとの例外規定です。

「ライフラインを使わないのですか?」

「きぃすとんでは、なぜ、ライフラインを使わないで、メインロープ1本で、ロープアクセス作業をしているのですか?」
とのご質問をいただくこともあります。理由は二つです。

理由1

作業の特性・制約上、ライフラインの設置が困難なケースが多いことです。 ライフラインの設置が不可能、もしくは困難、さらに無理して設置しても無意味なケースが、きぃすとんが得意とする調査・点検・検査の現場では少なくないため。

理由2

“経過措置”として改正安衛則において、ライフラインを設置しなくてもよいケースがあると認められているということです。
“経過措置”では、調査、点検、検査等の作業に限って、以下の条件①と条件②の措置を講じることを前提に、ライフラインは設置しなくてもいいとされています。

条件① メインロープを異なる2 つ以上の強固な支持物に緊結すること。
条件② メインロープが切断するおそれのある箇所との接触を避けるための措置等を講じること(ディビエーション、リビレイ)。

 

上記の2つの理由で、きぃすとんでは調査、点検、検査等の業務が多く、改正安衛則の規定に基づき、しかるべき措置を講じることで、ライフラインを必ずしも設置しないことが多いです。

「でも、もしメインロープが切れたら?」

ご安心下さい。ロープアクセス技術【SORAT】では、万全の対策でロープの切れる可能性をゼロにしております。 

創業以来35年間、無事故の安全実績があります。

ロープアクセス技術【SORAT】の資格

参考リンク

ロープ高所作業における危険の防止を図るための 労働安全衛生規則の一部を改正する省令等の施行について

ロープアクセス技術の主要装備 (詳細)

ハーネス(安全帯)

シットハーネス

腰と太腿で体重を支持する安全帯。シングルロープテクニックに適したハーネスを使用する。本講習ではロープの登高・下降に有利で軽量なワーク用アッセントハーネスを使用する。
少し煩雑になるが、ロッククライミング用のシットハーネスでも使うことができる。

チェストハーネス

チェストアッセンダーのトップホールを通して、首・胸・脇を通って上半身を支えるベルト。簡易なチェストハーネスには、主にトルスタイプとチェストエイトタイプがある。
●トルスタイプは首・背中しか支えないが、長さの調節が容易。
●チェストエイトタイプは脇の下を交差して支えるので、トルスに比べると支持面積が大き
く安定感に優れる。

ロッククライミング用のチェストハーネスは上半身の支持面積が適度に大きく、使いやすい。
ワーク用のチェストハーネスは主にトルスタイプで、厚いパッドが入っている。長時間のロープ
作業に適するが、重くかさばるため、搬入に労力がかかる山岳現場や装備を軽量化したい場
合などには向かない。

クライミング用チェストハーネス

ロッククライミング用のチェストハーネ スは上半身の支持面積が適度に大き く、使いやすい。

フォールアレストハーネス

ワーク用のフォールアレストハーネスは、胸部や背部にアタッチメントポイントが配置され、
墜落時の衝撃を均等に分散するために設計されている。
厚いパッドが入っており、ベルトの幅が広いため長時間のロープ作業やフリーハンギングに
適する。重くかさばるため、搬入に労力がかかる山岳現場や装備を軽量化したい場合など
には向かない。

ヘルメット・ロープ

ヘルメット

用途に合わせて、つばの有無やベンチレーションの有無、素材、自分の頭の形との相性などを要素として選択する。 長い髪の毛は下降器とロープに挟まれる可能性があるので、束ねて収納しておく。

ロープの外観

ロープの内部構造

一般的に、耐荷重が18KN以上で、直径が9mm~11mmの伸び率が5%以下のカーンマントル構造のスタティックロープ(広義の)を使用する。 ナイロン製が主流。外観は白色系のものが多い。用途に合わせて 色を変えるとわかりやすい。
ロープの構造は、コアがポリアミドの場合、太さ3mm程度の撚り ロープが10本程度の束になった「コア」を筒状に編んだ「シース」 で被覆している。 ロープにキンク(撚れ)がつきにくく、伸びにくいのが特徴。 ロープアクセスに十分習熟し、ロープの擦過を確実に回避できる ようになれば直径8mmのロープも使用の選択肢としてもよい。

コネクター類

主にカラビナタイプとマイロンタイプの二種類があり、素材は主にアルミ(軽量)とスチール(アルミに比べると重いが、より強い)の2種類が ある。 用途によって形や強度が異なり、適材を適所に用いる。

カラビナ【 形状による分類 】

オーバル型

楕円形のカラビナ。 左右対称で、FIXEプーリーやハンドアッセンダーのトップホール に接続する際に適する。最も汎用性が高い。

変形D型

左右非対称。クリップがしやすい。
この形状は強度が出しやすく、ゲートの開き幅も大きくとれる。強度が出しやすいので、軽量化に特化したカラビナはほとんどこの タイプ。ロッククライミングに多く使用されている。

HMS型

洋ナシ型で左右非対称。ゲート側が広く、イタリアンヒッチや ATC使用時などに適する。FIXEプーリーやハンドアッセンダーの トップホール接続にも適する。

デルタ型

左右対称で、小型の三角形。接続物同士の距離を縮めたい時や 軽量化に適する。

デミロンド型

半円形のカラビナ。
アッセットハーネスのメインアタッチメント用として使う。

特化型

左から、先端にプーリーを組み込んだカラビナ(DMM製リボルバー)や、下降器との併用を前提に制動追加のバーが付いたもの(PETZL製フレイノ)、またスイベルを内蔵したもの(Rock Exotica 製スイバビナ)等がある。リボルバーはハンドアッセンダー に付属させておくと、即座にZリグ(3倍力)が構築できて便利。

カラビナ【 安全環の種類による分類 】

環なし

安全環がないタイプ。
頻繁に開閉する個所や素早いクリップが必要な個所に使用する。カウズテイルの先端やディビエーションの先端など。

スクリューロック

ゲートを覆う管を手動でクルクルとねじってゲートをロックする。 ゲートが誤って開くことを防ぎたい個所に使用する。 主にリギング(支点やリビレイの構築など)に使用する。

オートロック

ゲートを覆う管にスプリングが仕込んであり、ゲート解放状態か ら手を離すと自動的にロック状態に移る。

トライアクトロック

オートロックにもうワンアクション加えた誤作動防止安全環。
一度セットしたらめったに開閉せず、確実なロックが求められる個所に使用する。ハーネスのメインアタッチメントなど。 くすり指でカラビナを保持すると、扱いやすい。

マイロン

スピーディー型

ゲート部が3~4回転程度で開閉し、全開まではスライドする。
設置・撤収が迅速に行える。 アルミ製とスチール製がある。

ラピード型

ゲート部は全ネジになっていて、ゲートの開閉には開き分のゲー トネジを回転させる必要がある。

アッセンダー(登高器)

ロープを挟んだり、ロープの外皮に噛みついたりしてロープ上に固定することのできるギア。用途によって形が異なる。
主にロープを登高する時や、重量物の引き上げなどの際に使用する。

ベーシックアッセンダー

一定方向のスパイク付きのカムがロープ表面に喰い込み、ロープ上の任意の位置でロックすることができる。基本的な形態で、登高やホーリングなど汎用性が高い。
600Kg前後でロープの外皮を食い破る。そのため倍力を使って展張するチロリアンブリッジのメインディバイスとしては使えない。

チェストアッセンダー

胸部に取り付けるアッセンダーとして特化したもの。
ロープが脱着しやすいようにカム部のプレートが最低限の大きさとなっている。ボトムホールに角度をつけることで、チェストアッセンダーが体に平行になるように設計されている。
強度はベーシックと同じ。

ハンドアッセンダー

手でつかんで使用する用途に特化したもの。
ベーシックアッセンダーにハンドルを取り付けたもの。フットループと合わせて使用する。片手で脱着が可能。
強度はベーシックと同じ。

フットアッセンダー

足首に取り付けるアッセンダーとして特化したもの。 補助アッセンダー。
なくても問題はないが、使い方に慣れると、とても楽に登れる。 あくまで補助ギアであり、自己確保器具として認識してはいけない。

ギブス系クランプ

偏心カムタイプのアッセンダーでスパイクがなく、泥や氷に覆われたロープのグリップに優れる。
ロープへの脱着は煩雑。
900㎏前後でロープの外皮を食い破る。

シャント

アタッチメントポイントに荷重すると金属バーがロープを押し挟む独特の仕組みの登高器。
ロープへの脱着は煩雑で荷重時のレスポンスは遅い。ATCと併用してオートストップ機能を付加できる。ATCと同じくシングルでもダブルロープでも使用することができる。
ダブル使用時は異なる径のロープを使用しない。太い方のロープ のみロックされ、細い方のロープがすっぽ抜ける可能性がある。

ディッセンダー(下降器)

様々な下降器があるが、いずれも金属部品とロープで摩擦を生じさせることで、下降速度を制御する。
それぞれ形状が異なるので、下降器使用に必要なロープの長さも異なる。下降器を使う際にはハードロック(ロープ上で両手を離した状態で安定し て停止できる状態)が不可欠である。そのため下降器使用に必要なロープの長さは、下降器の取り付けだけでなく、ハードロックに必要な長さであ る。下降開始時に必要なロープのたるみ長さが、下降器によって異なるため、複数人で一つのリギングルートを共有する場合は、パーティー内で同一 の下降器を使用すべきである。

シンプル

シンプル1
シンプル2
オートストップ機能がないシングルロープ用のダブルボビンディッセンダー。
フレイノなど制動追加カラビナと併用することが多い。

ストップ

ストップ1
ストップ2
オートストップ機能を有するシングルロープ用のダブルボビンディッセンダー。オンロープレスキュー時にはテンションのかかったロープの下 降にも対応し、汎用性が高い。
前面プレートのアタッチメントホールはクリップ式になっており、下降器をカラビナから取り外さなくてもロープに取り付けられる。

リグ

リグ1
リグ2
ワークソリューション用に開発されたシングルボビンディッセンダー。
レバー操作のみでハードロックすることができる。 前面プレートのアタッチメントホールはクリップ式になっており、下降器をカラビナから取り外さなくてもロープに取り付けられる。
ロープが細かったりボビンが擦り減ったりしている場合、ストップと同様のハードロックを追加することも有効。

アイディ

構造はリグと同じだが、誤操作防止カムやパニック防止機能など 安全装置が取り付けられている。初心者の誤操作防止には役立 つが、スズメバチに襲われた際などの緊急脱出時には仇となるこ ともある。
前面プレートのアタッチメントホールはクリップ式になっており、 下降器をカラビナから取り外さなくてもロープに取り付けられる。

スパロウ

リグ同様ワークソリューション用シングルボビンディッセンダー。
制動追加バーを内蔵し、完全なインライン型(ロープが同一平面上を通過し、ロープにキンクがつかない)となっている。 レバー全開時のパニック防止機能が付いている。
前面プレートのアタッチメントホールはクリップ式になっており、下降器をカラビナから取り 外さなくてもロープに取り付けられる。

グリグリ

シングルボビンの下降・確保器。フリークライミングに多用される。オートストップ機能があり、ロープアクセスでも使用可。
オートストップの下降器としては最軽量。勾配が緩いとオートロックのレスポンスが悪い。
前面プレートはクリップ式になっておらず、ロープに取り付ける際は、下降器をカラビナから取り外す必要がある。

ATC類

カラビナと合わせて使うことで確保器、下降器となる。
オートストップ機能はないがプルージックやシャントと併用しオー トストップ機能を付加できる。 ダブルで使用できる。

エイト環

伝統的に使われている8の字型の下降・確保器。
ベントフリクションタイプ(ロープが立体的に通過する)のため、 ロープにキンク(ねじれ)が生じることから、ロープアクセスでは 使用しない。

ラック

ロープを複数本のバーに交互に通過させることで制動力を得る ブレーキバータイプの下降器。
ハードロックや脱着が煩雑でアルパインスタイル(中間セットを 多用しエッジを回避するリギング様式)のロープアクセスには不向き。
ロングピッチ下降時の放熱性に優れる。ダブルでも使用できる。 テンション中に制動力の追加・減少が可能。

カウズテイル

カウズテイル

先端にカラビナを取り付けた、長短2本の自己確保用ランヤード。
中間セット通過時の自己確保やハンドアッセンダー使用時の自己確保 に使用する。
製品としてはPETZLのスペルジカやプログレスが相当する。

カウズテイルII

トラバースラインを構築・通過する際に使用する3本目のランヤード。 ダイナミックロープで自分の手を伸ばした長さ程度に製作する。 ランヤード末端はダブルフィギュアエイトノット、バレルノット、オー バーハンドノットのいずれかで結束する。
または、片方末端は下降器に通して調節可能ランヤードとしてもよい。

フットループ

ハンドアッセンダーに接続して足でけり上がる。 末端が足を入れるループになっていて、長さ調節ができる。 テープ素材のものと、コード素材のものがある。

エイダー

あぶみ(エイダー)は一般的に4~5段のステップがあり、テープ素材 のものと金属プレート素材のものがある。 テープ素材は収納性に優れるが立ち込み時の快適さに劣る。 金属プレート素材はかさばるが、長時間の立ち込み作業に適する。 ロープアクセスではボルトトラバースの際に使用する。

テープ

主に幅10mm~30mm程度の幅広の繊維製テープ。 ウォーターノットで結束してリギングの際、補助的に使用する。

ソーンスリング

あらかじめリング状に縫い合わせたテープ製品のこと。 22KN程度の強度があるものが多い。 非常に便利で使用頻度も高いが、使用には注意も必要。

デイジーチェーン

ソーンスリングの中間を十数か所縫い合わせて、任意の箇 所に荷重可能点を作ったもの。 ソーンスリング(末端同士)の耐荷重は22KNあるが、 中間のポケットの耐荷重は300Kg程度。 ナチュラルアンカーにガースヒッチで結束して多用する。

コード

主に直径が5mmから8mm程度のカーンマントル構造で断面が円形 のロープ。 リギングの際、補助的に使用する。 ケブラーやダイニーマ素材のものはメインロープと同等の強度を持 つものもある。 縫製したり結束してスリング状にしても多用する。

プロテクター

PVCなどの擦傷耐性の高い生地で製作されたロープの保護部材。

プーリー(滑車)

引き込み方向の変更や倍力システムの構築に使用する。

FIXEタイプ

FIXE1
FIXE2
本体のプレートが固定されている。 アッセンダーと組み合わせてアセンブリ(集合体)を形成し、プーリーカムやZリグ先端部を構築できる。

スウィングスライドタイプ

スウィング1
スウィング2
滑車の軸で両面のプレートが回転してロープを取り付ける。滑車効率の高いものが多い。 倍力上位化のために同軸で二つのボビンを配置したものもある。

タンデムプーリー

タンデム
主にチロリアンブリッジを通過する際に、方向を安定させるためにボビンを並べて配置したプーリー。

プーリーカム

プーリー(滑車)とカムが一体になったもの。主にホーリング(引き上げ)やレスキュー、チロリアンブリッジ上の移動の際に使用する。
ロープの展張に使用してはいけない。
プーリーのみとしても、カムのみとしても使用できる。

リギングプレート

複数のアタッチメントポイントを有する強度を持った金属プレートまたはキューブ。
主にレスキューや重量物のホーリングに使用する。 携行道具が多い場合、自分のアタッチメントポイントの下側に小型のリギングプレートを付けておくと荷物の振り分けに便利。

ロープバッグ

主にPVCなどの吸水しない滑らかな生地で作られたロープ搬送用の カバン。
壁面での引き上げや、狭所通過のため、引っかからないように極力 突起を失くすようにデザインされている。

ブランコ

長時間の空中懸垂状態を補助する吊り椅子。 ハーネスのメインアタッチメントに左右両側から調節可能のバックル で接続する。

人工アンカー

岩石などを削孔して挿入、定着させる金属部材。 ロープの支点として使用する。
物理的に拡張させて定着させるもの(エクスパンジョンタイプ)と、 接着剤で定着させるもの(ケミカルタイプ)がある。

ハンガー

人工アンカーにボルトで接続して、カラビナやロープを結束するための金属プレート。(一部はコード類を併用する)
ハンガーはM8のボルトでアンカーに締結するため、13mmのレンチを用いる。
ハンガーをアンカーに締結する際、ボルトの過度な締め付けはアンカーやボルトへのストレスとなり、かえって支点強度を小さくすることになる。 したがって、最も強度が得られる閉め込みの目安として、締まり始め(ボルトの回転に抵抗がかかり始める点)から100°回転させて締結完了 とする。

ツイスト

ツイスト2
荷重方向は基本的にはアンカー軸と垂直にしか許容されないが、 経験的に背中部分の延長線までは何となくOK。 カラビナ等を介してロープと接続する。直接ロープを接続しては ならない。

ストレート

ストレート2
荷重方向は基本的にはアンカー軸と垂直にしか許容されない。 オーバル型のカラビナと合わせてノット(ロープの結び目)を壁面 から離すことができる。 カラビナ等を介してロープと接続する。直接ロープを接続しては ならない。

クラウン

クラウン2
アンカー軸方向に関係なく、全方位に荷重できる。 カラビナを使用せずノットを直接ハンガーに結束して使用する。 アンカー取り付け後にロープの長さの調節ができない。 壁面からの離隔が最も大きくとれる。 廃盤で新規の入手は困難。

ダブルホール

ダブルホール3
ツイスト型のステンレスハンガー。 スチール製のマイロン(カラビナでも可)とあわせて使用する。 トップホールはボルト直上に位置するので、ツイストプレート面( 穴のあいた面)上であればどの方向でも荷重可能。 ボトムホールはアンカー軸と垂直にしか許容されない。 直接ロープを接続してはならない。

リングハンガー

リングハンガー2
スチール製のリングをボルトで締結したハンガー。 リング平面上であればどの方向でも荷重可能だが、リング平面上 以外は荷重をかけてはいけない。 ハンマー後尾のレンチが使用できないので、一般的なレンチが必 須。

ASフレキシブルハンガー

AS2
6mmのダイニーマコードと併用して使用する。 コードが流動して全方位に荷重可能。 メインロープのノットにスクエアノットで結束することにより、カ ラビナを省略できる。 ダイニーマコードとプレートのエッジが擦傷するため、コードの傷 みが早い。連続して使用するなら改良が必要。 カラビナを使用しても可。

ジャンピング

アンカーの削孔・打設に使用する。 アンカーを頻繁に打設するのであれば、上腕二頭筋の上を調節可能 バックルで固定して、ジャンピングをカラビナで吊っておくと取り出し やすくて便利。 自己削孔型アンカーは比較的柔らかい岩石(コンクリート、石灰岩、 固結度の低い砂岩・泥岩など)なら削孔できるが、硬い岩石(チャー ト、深成岩、溶岩など)には歯が立たず、ドリルビットでの削孔が必 要。自己削孔型アンカーを打設する場合は後尾をハンマーで打撃し て少しずつ削孔していく。

ペルフォスペ

先端に自己削孔型アンカー(PETZL社のSPIT)を取り付けて削 孔・定着させることができる。 グリップアンカーの拡張にも利用できる。

ロックペッカー

先端がSDSシャンクになっていてドリルビットやM8ボルトに付け 替えが可能。 ドリルビットでの削孔も自己削孔型アンカー(PETZL社のSPIT) での削孔も可能で、工業用のアンカーも打設できる。

ハンマー

アンカー打設に使用する。 強い打撃力が得られるものよりも、手首で小振りにバランス良く操 作できるものがよい。 岩壁面を成型するピックとレンチが付帯したものがよい。

ハンマードリル

アンカー削孔に使用する。 打設本数が多い時や、岩石が固い場合にはハンマードリルが有効。 バッテリー式で最軽量のものは1.8㎏。

ナイフ

オンロープレスキューが発動した場合、ロープを切って要救助者を脱 出させる。 カラビナに直接クリップできるナイフが各社から発売されている。 必ず携帯すること。

レンチ

できるだけコンパクトでラチェット機能が付いたものが望ましい。 ハンガー脱着の都度必要になるのでハンガーを使用するルートでは ジャンピングと同じく上腕に吊っておくと便利。

株式会社きぃすとん

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